不動産投資で節税できる?損益通算のしくみと「節税にならない」ケース

白いテーブルの上で、小さな真鍮の天秤ばかりの片方に白い家の模型、もう片方に書類の束が載っている静物写真 不動産投資コラム

投資用マンションの勧誘や広告では、「会社員の税金対策になる」という説明を目にすることがあります。たしかに、賃貸の赤字を給与と差し引ける仕組みは所得税法にあります。一方で、差し引けない部分があること、赤字そのものが手元のお金の減少であること、売るときに別の税金がかかることは、あまり語られません。

この記事では、法令と国税庁の資料をもとに、損益通算の仕組みと税負担が思ったほど軽くならないケースを並べます。特定の物件や商品を勧めるものではありません。ご自身の数字で試算し、判断に迷う点は税務署や税理士に相談してください。

この記事でわかること

  • 不動産所得の赤字を給与所得と差し引く「損益通算」の仕組み
  • 土地を買うための借入金の利子など、差し引けない部分
  • 赤字で戻る税金と、出ていくお金の大きさの関係
  • 売却したときの譲渡所得と、長期・短期の区分

損益通算とは

所得税法第69条は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の計算で損失が出たとき、政令で定める順序で他の所得から差し引くと定めています。これが損益通算です。国税庁 No.2250 でも、損失を他の所得と通算できるのはこの4種類とされ、給与所得や雑所得の損失は通算の対象外です。

会社員の場合、給与からはすでに所得税が源泉徴収されています。不動産所得が赤字の年に確定申告をすると、給与所得から赤字分が差し引かれて課税される所得が小さくなり、納めすぎた源泉徴収税額の一部が還付されることがあります。

例:給与所得が500万円、不動産所得が50万円の赤字なら、合計の所得は450万円として扱います(架空の数字。所得控除は考えない)。この「50万円減る」ことが、税額がいくら変わるかとは別だという点が次の論点です。

通算できない赤字がある

不動産所得の赤字は、すべてが給与と差し引けるわけではありません。代表的なのが土地を取得するための借入金の利子です。租税特別措置法第41条の4は、赤字の年に必要経費へ入れた利子のうち、土地や借地権を取得するための負債の利子に相当する部分は、損益通算の規定の適用上「生じなかったもの」とみなすと定めています。

差し引けなくなる額は、同法施行令第26条の6で決まります。土地分の利子が赤字より大きいときは赤字の全額、利子が赤字以下のときは利子に相当する額です。

例(架空の数字)不動産所得の赤字土地分の利子給与と通算できる額
A80万円30万円50万円
B20万円30万円0円

出典:租税特別措置法第41条の4、同法施行令第26条の6第1項(e-Gov法令検索)をもとに作成(確認日 2026-10-19)

区分マンションは、建物の代金と敷地の持分の代金をまとめて借入れで支払うのが一般的です。同じ売主から一つの契約で土地と建物を取得し、借入金を資産ごとに分けにくいときは、借入金がまず建物の代金に充てられ、残りが土地に充てられたものとして計算できるとされています(施行令第26条の6第2項)。借入額や価額の内訳によって通算できる額が変わるため、契約書の内訳を確認しておきましょう。

このほか No.1391 は、別荘など主に趣味・娯楽目的の不動産の貸付けによる損失や、国外中古建物で簡便法により計算した減価償却費にあたる損失(令和3年以後)なども通算の対象外としています。

赤字は「実際に損している」ことが多い

損益通算で軽くなるのは、赤字の額そのものではなく、赤字の額に自分の税率をかけた分です。所得税の税率は課税所得に応じて5%から45%(No.2260)、個人住民税の所得割の標準税率は10%(総務省)です。

例:課税所得の税率が20%の人が50万円の赤字を通算した場合、所得税の目安は50万円 × 20% = 10万円、住民税は50万円 × 10% = 5万円で、合計約15万円の負担減です(架空の数字。復興特別所得税や控除の影響は除く)。赤字の50万円が現金で出ていった支出であれば、税で戻る分を差し引いても約35万円は手元から減っています。

赤字の中身が減価償却費の場合は事情が違います。減価償却費は過去に払った建物代金を年ごとに経費へ振り分けたもので、その年に現金が出ていくわけではありません。ただし、この分は次に見るとおり、売却のときに計算へ跳ね返ってきます。

売却したときの譲渡所得

土地や建物を売ったときの所得は、給与などとは合計せず分離して計算します(No.1440)。計算式は「収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除額」です。売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかで税率が分かれます。

区分所有期間(売った年の1月1日現在)所得税住民税
長期譲渡所得5年を超える15%5%
短期譲渡所得5年以下30%9%

出典:国税庁 タックスアンサー No.1440・No.3208・No.3211。このほか復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)がかかる(確認日 2026-10-19)

見落としやすいのが取得費です。建物の取得費は、購入代金から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額になります(No.3252)。毎年の経費として計上した減価償却費が大きいほど、売るときの取得費は小さくなり、そのぶん譲渡所得は大きく計算されます。税が軽くなったように見えた額の一部は、売却時の計算で戻ってくる構造です。

反対に、売って損が出た場合も、居住用財産の一定の特例を除き、土地・建物の譲渡損失は給与など土地・建物以外の所得と通算できません(No.2250)。

税負担が軽くならない主なケース

ケース理由
不動産所得が黒字差し引く赤字がない。黒字の分だけ課税される所得が増える
赤字の多くが土地分の利子その部分は損益通算の対象外(措置法第41条の4)
適用される税率が低い戻る税金は「赤字 × 税率」。税率が低いほど戻りは小さい
赤字が現金の支出によるもの戻る税金より出ていくお金のほうが大きい
減価償却で赤字にしている取得費が減り、売却時の譲渡所得が大きくなる
5年以内に売る短期譲渡所得として長期より高い税率がかかる

出典:所得税法第69条、租税特別措置法第41条の4、国税庁 タックスアンサー No.2250・No.2260・No.3252・No.3211 をもとに作成(確認日 2026-10-19)

試算するときに確かめたいこと

  • 家賃収入から、ローンの利息・管理費・修繕積立金・固定資産税などを引いた毎年の収支
  • ローン返済の元本を含めた、毎月の手元のお金の出入り(元本は経費にならない)
  • 赤字のうち、土地分の借入金の利子にあたる額
  • 自分に適用される所得税の税率と、戻る税金の目安
  • 何年後に売る想定か、そのときの取得費と譲渡所得の見込み

「税金が戻る」と説明されたら、何年分の数字か、売却時の税金まで含むかを書面で確かめてから判断しましょう。

よくある質問

あります。確定申告で不動産所得の赤字を給与所得と損益通算すると、源泉徴収された所得税の一部が還付されることがあります。ただし、土地を取得するための借入金の利子にあたる部分は通算できません。

青色申告をしている人は、損益通算をしても控除しきれない純損失を翌年以後3年間繰り越せます(国税庁 No.2070)。白色申告の場合の扱いは税務署に確認してください。

その年の所得は小さくなりますが、建物の取得費は減価償却費相当額を差し引いて計算するため、売却時の譲渡所得が大きくなります。保有期間全体と売却まで含めて試算することが大切です。

まとめ

  • 不動産所得の赤字は、所得税法第69条により給与など他の所得と差し引ける
  • 土地を取得するための借入金の利子にあたる部分は通算できない(措置法第41条の4)
  • 戻る税金は「赤字 × 税率」まで。現金で出た赤字なら手元のお金は減っている
  • 減価償却した分は取得費から引かれ、売却時の譲渡所得に跳ね返る。5年以下の所有は短期で税率が高い
  • 売却まで含めて自分の条件で試算し、迷う点は税務署や税理士へ

参考にした資料