英語の自習法としてよく名前が挙がるのがシャドーイングです。やり方そのものは単純ですが、素材が合っていなかったり、手順を飛ばしたりすると、口が追いつかないまま時間だけが過ぎることも少なくありません。
この記事では、研究でどこまで分かっているかを確かめたうえで、練習の手順、素材の選び方、つまずきやすい点と対処を整理します。
シャドーイングとは「聞こえた音声を少し遅れて声に出して追う」練習
シャドーイングは、流れてくる英語を聞きながら、少し遅れて影(shadow)のように同じ言葉を声に出して追いかける練習です。もとは通訳者の訓練で使われてきた方法で、日本では1990年代から英語の授業での研究が進みました。
似た練習との違いは、音声が止まるかどうかです。秋田大学の研究者による論文では、ひと区切り聞いてから無音の間に言い直すリピートに対し、シャドーイングは間を置かずに聞きながら同時に声を出す活動として説明されています。そのぶん音に注意が向きやすい一方、頭の負担が大きく、くり返しが多いことが弱点になりうるとも指摘されています。文字を読み上げる音読とは、目ではなく耳から入った音を手がかりにする点が違います。
研究で報告されていること・まだ言えないこと
日本の英語学習者を対象にした研究は、主にリスニング力との関係を調べてきました。代表的なものを3つ紹介します。
- 難しさの違う素材で訓練を比べた研究では、13回の訓練のあと、易しい素材を使ったグループで聞き取りの伸びが確認されたと報告されている(日本第二言語習得学会誌、2009年)
- 中級の大学1年生を2つに分け、1か月で8回練習した研究では、語彙と内容を先に学んでからシャドーイングしたグループだけ、聞き取りテストの得点に統計的な差が出たと報告されている(2014年)
- 初めて見る素材で42日間続けた研究では、音を正しく聞き取れたかを示す得点は上がる傾向が見られた一方、まねの正確さを示す得点は変わらなかったと報告されている(外国語教育メディア学会誌、2022年)
どれも対象の人数や期間が限られた研究で、2014年の研究は著者自身が、比べる対照群がないことや対象の学力が中級に限られることを限界として挙げています。つまり、「続ければ話せるようになる」「発音がすぐ整う」とまでは言えません。言えるのは、素材の難しさや練習の順番によって結果が変わりうる、ということです。
シャドーイングの手順
いきなり音声に重ねて声を出すのではなく、段階を踏むのが基本です。下の表は、2014年の論文で使われた練習の流れ(日本の通訳研究者が勧める手順をもとにしたもの)を、自習向けに言い換え、最後に録音の確認を足したものです。
| 段階 | やること | ねらい |
|---|---|---|
| 1 聞く | 文字を見ずに、まず全体を1回聞く | 話の流れと速さをつかむ |
| 2 小声で追う | 文字を見ずに、小さな声(口の中で)で音を追う。2回ほど | 声を出す前に音の区切りに慣れる |
| 3 文字を見て重ねる | スクリプトを見ながら音声と同時に読む(オーバーラッピング、パラレル・リーディングとも呼ばれる) | 聞き取れない部分の文字と音を結びつける |
| 4 意味を確かめる | スクリプトと訳で、分からない語と文の意味を確認する | 内容を分かった状態で練習できるようにする |
| 5 シャドーイング | 文字を見ずに、少し遅れて声に出して追う。3回ほど | 耳だけを頼りに音を再現する |
| 6 見直す | 言えなかった音や意味の取れなかった所をスクリプトで確かめる | つまずいた箇所を特定する |
| 7 意味を意識して追う | 内容を思い浮かべながらもう一度シャドーイング | 音と意味を同時に処理する |
| 8 録音して確認 | 自分の声を録音し、元の音声と聞き比べる | 抜けた語・つぶれた音を客観的に見つける |
出典:The Language Teacher 38(1)(全国語学教育学会・2014年)掲載論文の練習手順(Table 4)をもとに作成。8の録音確認は本記事で追加(確認日 2026-10-20)
4で意味を確かめてから5に進むのは、先に内容を学んだグループの得点が伸びたという2014年の結果とも合う順番です。ただし、同じ論文は、学力の高い人には内容を知らない状態で追う練習のほうが適度な負荷になる可能性にも触れています。最初は意味を確認してから、慣れてきたら初見の素材も試す、という使い分けが考えられます。
1回の練習の組み立て例
例:1分ほどの音声を素材にして、1〜4で5分、5〜7で7分、録音と聞き比べで3分。同じ素材を数日くり返し、録音で抜ける語が減ってきたら次の素材に移ります。時間配分は一例で、決まった目安があるわけではありません。
素材の選び方:難易度・長さ・スクリプトの3条件
手ごたえは素材選びで大きく変わります。次の条件で選ぶと迷いにくくなります。
- 難易度:スクリプトを読めば大部分の意味が分かる程度。2014年の論文では、知らない単語が100語あたり2〜3語以下の、比較的易しい素材を使うのが原則と紹介されている
- 長さ:最初は1分前後の短いもの。2014年の研究で使われた文章は1本あたり100〜145語程度だった
- スクリプト:英文の書き起こしが手に入ること。手順3・4・6で使うため、ないものは避ける
- 音声の質:雑音や音楽が少なく、一人ずつ話しているもの。速さは自分が聞いて内容を追える程度から
- 内容:仕事や関心のある分野など、くり返し聞いても飽きにくい話題
難しい素材ほど力がつきそうに思えますが、2009年の研究では易しい素材のグループで伸びが確認されています。まずは「少し易しい」と感じる素材で、最後まで声がついていく状態を作ることを優先しましょう。
つまずきやすい点と対処のしかた
なお、舌や唇の位置など個々の音の作り方を直すのは別の練習です。シャドーイングは「聞いた音のまとまりをまねる」練習と考えておきましょう。
よくある質問
決まった目安はありません。紹介した研究は、週2回を1か月、13回、42日間など条件がばらばらで、時間と効果の関係を一律に示したものではありません。短い時間でも、手順を踏んで同じ素材をくり返すことを優先し、自分の使える時間から決めてください。
始めること自体はできますが、素材を易しく短くすることが前提です。スクリプトを読んでも意味が取れない素材では、音を追うだけで手いっぱいになりがちです。文字を見て音声に重ねる練習や、意味の確認に時間をかけるところから入ると取り組みやすくなります。
そこまでは言えません。研究で主に調べられてきたのは聞き取りとの関係で、話す力への影響はまだ限られた報告しかありません。自分の考えを英語で組み立てて話す練習や、実際に人と話す機会は別に用意する必要があります。
まとめ
参考にした資料
- Yo Hamada「The effectiveness of pre- and post-shadowing in improving listening comprehension skills」The Language Teacher 38巻1号 pp.3-10(全国語学教育学会 JALT、2014年)
https://jalt-publications.org/sites/default/files/pdf-article/38.1tlt_art1.pdf(確認日 2026-10-20) - 濱田陽「テキストの難易度がシャドーイングトレーニングの効果に与える影響とリスニングメタ認知ストラテジーへの影響」Second Language 8巻 pp.27-49(日本第二言語習得学会、2009年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/secondlanguage/8/0/8_27/_article/-char/ja/(確認日 2026-10-20) - 中西のりこ・峯松信明・椢原卓弥「未習パッセージを用いた英語シャドーイングの効果 ―リスニング力およびスピーキング力との関係―」Language Education & Technology 59巻 pp.77-105(外国語教育メディア学会、2022年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/let/59/0/59_77/_article/-char/ja/(確認日 2026-10-20)

